にものいふたぐひの人にわれ習はじとて、その時間に顔出さざりしひがみ今に残り候私なれど、この御集のちがひやう私にも目につき候は、さはいへあやしき襟《えり》かけし少女をくちをしと見る思《おもい》に候。
天眠様精様京の光子様お逢ひしたき人多けれど、かう児どもつれてはいかが致すべき。
帰る日まで申さじと思ひ候ひしが、胸せまりて書き添へまほしくなり候。そはやはりふるさとは詩歌の国ならず、あさましきこと憂《う》きこと、きのふの夕より知りそめしに候。
竹村の姉がり訪ひしに、私は聞かでもよきこと、姉は語らではあられぬこと耳に致し、人の子に否とこたへしわが名、もとよりなりと何も/\思ひすてをり候ものを、をみななり、今更に悲しう、父あらぬ身をわびしと思ひ知り候。母も宅の者誰もその事しらず候へど、姉より聞けば、むかひ側の家今は人の家なれば、私帰るともそこへは一歩もふむをゆるすなと、はる/″\英国より△△まで。――君おしはかり給へ。――それにその人、私の着くとやがて来て、ちと来よなど、さりとは知らぬおとしあな、おそろしの世と知り候。かなたの湯殿《ゆどの》に母も弟の思へる人も入りに行けど、さらばわれは踏む
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