れは歌に候。この国に生れ候私は、私らは、この国を愛《め》で候こと誰にか劣り候べき。物堅き家の両親は私に何をか教へ候ひし。堺《さかい》の街《まち》にて亡《な》き父ほど天子様を思ひ、御上《おかみ》の御用に自分を忘れし商家のあるじはなかりしに候。弟が宅《うち》へは手紙ださぬ心づよさにも、亡き父のおもかげ思はれ候。まして九つより『栄華《えいが》』や『源氏《げんじ》』手にのみ致し候少女は、大きく成りてもます/\王朝の御代《みよ》なつかしく、下様《しもざま》の下司《げす》ばり候ことのみ綴《つづ》り候|今時《いまどき》の読物をあさましと思ひ候ほどなれば、『平民新聞』とやらの人たちの御議論などひと言ききて身ぶるひ致し候。さればとて少女と申す者誰も戦争《いくさ》ぎらひに候。御国のために止《や》むを得ぬ事と承りて、さらばこのいくさ勝てと祈り、勝ちて早く済めと祈り、はた今の久しきわびずまひに、春以来君にめりやすのしやつ一枚買ひまゐらせたきも我慢して頂きをり候ほどのなかより、私らが及ぶだけのことをこのいくさにどれほど致しをり候か、人様に申すべきに候はねど、村の者ぞ知りをり候べき。提灯《ちようちん》行列のための
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