みには君ことわり給ひつれど、その他のことはこの和泉《いずみ》の家の恤兵《じゆつぺい》の百金にも当り候はずや。馬車きらびやかに御者馬丁《ぎよしやばてい》に先き追はせて、赤十字社への路に、うちの末《すえ》が致してもよきほどの手わざ、聞《きこ》えはおどろしき繃帯巻《ほうたいまき》を、立派な令夫人がなされ候やうのおん真似《まね》は、あなかしこ私などの知らぬこと願はぬことながら、私の、私どものこの国びととしての務《つとめ》は、精一杯致しをり候つもり、先日××様仰せられ候、筆とりてひとかどのこと論ずる仲間ほど世の中の義捐《ぎえん》などいふ事に冷《ひやや》かなりと候ひし嘲《あざけ》りは、私ひそかにわれらに係《かか》はりなきやうの心地《ここち》致しても聞きをり候ひき。
 君知ろしめす如し、弟は召されて勇ましく彼地へ参り候、万一の時の後の事などもけなげに申して行き候。この頃新聞に見え候勇士々々が勇士に候はば、私のいとしき弟も疑《うたがい》なき勇士にて候べし。さりながら亡き父は、末の男の子に、なさけ知らぬけものの如き人に成れ、人を殺せ、死ぬるやうなる所へ行くを好めとは教へず候ひき。学校に入り歌俳句も作り候
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