ゆん》の弟の、たび/\帰りて慰めくれと申しこし候は、母よりも第一にこの新妻《にいづま》の上と、私見るから涙さしぐみ候。弟、私へはあのやうにしげ/\申し参りしに、宅へはこの人へも母へも余り文おくらぬ様子に候。思へば弟の心ひとしほあはれに候て。
 おん礼を忘れ候。あの晩あの雨に品川《しながわ》まで送らせまつり、お帰りの時刻には吹きぶり一層|加《くわわ》り候やうなりしに、殊《こと》にうすら寒き夜を、どうして渋谷《しぶや》まで着き給ひし事かと案じ/\致し候ひし。窓にお顔見せてプラツトホームに立ち居給ひし父様の俄《にわか》に見えず成り給ひしに、光《ひかる》不安な不思議な顔して外のみ眺《なが》め、気を替へさせむと末《すえ》さま/″\すかし候へど、金《きん》ととの話も水ぐるまの唱歌も耳にとめず、この小《ちいさ》き児《こ》の胸知らぬ汽車は瞬《またた》く内に平沼《ひらぬま》へ着き候時、そこの人ごみの中にも父さま居給ふやと、ガラス戸あけよと指さしして戸に頭つけ候に、そとに立ち居し西洋婦人の若きが認めて、帽に花多き顔つと映《うつ》し、物いひかけてそやし候思ひがけなさに、危く下に落つるばかりに泣きころげ来《き
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