しないで置きません。これを抑制し、または回避するような不良な傾向があるなら、それは唯だ一つの理由、即ち社会の経済的分配が法外な不公平を示して、過度の労働の下に生産した物質価値の大部分を資本階級に由って搾取されてしまった後の私たち無産階級の生活が、子供を育てるどころか、結婚をするにも甚だしく不適当であるという理由に帰する外はありません。現に結婚難は都鄙《とひ》の別なく年を追うて我国にも増大して行きます。病人と不具者とでない限り、誰も好んで老嬢となる者はありませんが、今日は多数の男子が一身の物質生活にさえ欠乏していて、そのうえ妻子を扶養する経済的負担の苦痛を重ねるのに忍びないで、やむをえず結婚を回避している有様ですから、女子解放運動が母性を失わしめるというような批難は全く見当違いです。
 また万人に結婚の可能な新社会が出現したからといって、人間は必ずしも結婚して親とならねばならないという事はなかろうと思います。「人間的活動」の領域は濶大《かつだい》され、それに参加する自由と機会とを万人が保障されている社会に、男も女も、適材を以て適処に就くのが宜しい。殊に私たちの期待している新社会では、恋愛
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