ろ、価値の大小が、明白に数字で現れるのですからな。殊にゾイリア国民が、早速これを税関に据えつけたと云う事は、最も賢明な処置だと思いますよ。」
「それは、また何故《なぜ》でしょう。」
「外国から輸入される書物や絵を、一々これにかけて見て、無価値な物は、絶対に輸入を禁止するためです。この頃では、日本、英吉利《イギリス》、独逸《ドイツ》、墺太利《オオストリイ》、仏蘭西《フランス》、露西亜《ロシア》、伊太利《イタリイ》、西班牙《スペイン》、亜米利加《アメリカ》、瑞典《スウエエデン》、諾威《ノオルウエエ》などから来る作品が、皆、一度はかけられるそうですが、どうも日本の物は、あまり成績がよくないようですよ。我々のひいき眼では、日本には相当な作家や画家がいそうに見えますがな。」
 こんな事を話している中に、サルーンの扉《ドア》があいて、黒坊《くろんぼ》のボイがはいって来た。藍色《あいいろ》の夏服を着た、敏捷《びんしょう》そうな奴である、ボイは、黙って、脇にかかえていた新聞の一束《ひとたば》を、テーブルの上へのせる。そうして、直《すぐ》また、扉《ドア》の向うへ消えてしまう。
 その後で角顋は、朝日の灰
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