リアなどと云う名前は、未嘗《いまだかつて》、一度も聞いた事のない名前である。
「そうですか。」
「そうですとも。ゾイリアと云えば、昔から、有名な国です。御承知でしょうが、ホメロスに猛烈な悪口《わるくち》をあびせかけたのも、やっぱりこの国の学者です。今でも確かゾイリアの首府には、この人の立派な頌徳表《しょうとくひょう》が立っている筈ですよ。」
僕は、角顋《かくあご》の見かけによらない博学に、驚いた。
「すると、余程古い国と見えますな。」
「ええ、古いです。何でも神話によると、始は蛙《かえる》ばかり住んでいた国だそうですが、パラス・アテネがそれを皆、人間にしてやったのだそうです。だから、ゾイリア人の声は、蛙に似ていると云う人もいますが、これはあまり当《あて》になりません。記録に現れたのでは、ホメロスを退治した豪傑が、一番早いようです。」
「では今でも相当な文明国ですか。」
「勿論です。殊に首府にあるゾイリア大学は、一国の学者の粋《すい》を抜いている点で、世界のどの大学にも負けないでしょう。現に、最近、教授連が考案した、価値測定器の如きは、近代の驚異だと云う評判です。もっとも、これは、ゾイ
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