は焔よりも輝きつつ、王者の如く振舞ひしが故なり。……
眼
[#地から1字上げ]――中華《ちうくわ》第一の名庖丁《めいはうちやう》張粛臣《やうしゆくしん》の談――
眼をね、今日《けふ》は眼を御馳走しようと思つたのです。何《なん》の眼? 無論人間の眼をですよ。そりや眼を召上《めしあ》がらなければ、人間を召上つたとは云はれませんや。眼と云ふやつはうまいものですぜ。脂があつて、歯ぎれがよくつて、――え、何《なに》にする? まあ、湯《タン》へ入れるんですね。丁度《ちやうど》鳩の卵のやうに、白眼《しろめ》と黒眼《くろめ》とはつきりしたやつが、香菜《シヤンツアイ》が何かぶちこんだ中に、ふはふは浮いてゐやうと云ふんです。どうです? 悪くはありますまい。私《わたし》なんぞは話してゐても、自然と唾気《つばき》がたまつて来ますぜ。そりや清湯燕窩《せいたうえんくわ》だとか清湯|鴒蛋《れいたん》だとかとは、比べものにも何《なに》にもなりませんや。所が今日《けふ》その眼を抜いて見ると、――これにや私も驚きましたね。まるで使ひものにやならないんです。何、男か女か? 男ですよ。男も男も、髭《ひげ》の生
前へ
次へ
全14ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング