つた。
「鴉片煙とは何物ぞ?」
「方今承平日に久しく、人口過剰に苦しんでゐる。宜しく大劫《だいこふ》の銷除《せうぢよ》する有るべし。元来大劫なるものは水火刀兵の災に過ぐるものはない。この劫《こふ》に遇ふものは賢愚|倶《とも》に滅びてしまふ。福善禍淫の説も往往此に至つて窮まるものである。そこで天帝は諸神の会議を召集し、特に鴉片煙劫を創《はじ》めることにした。鴉片煙劫とは世間の罌粟の花汁《くわじふ》を借り、熬錬《がうれん》して膏《かう》と成し、人の吸食に任ずるものである。この煙を食ふものは劫中に在り、この煙を食はざるものは劫中に在らず。その人の自ら取るに任かせて造物の不仁を咎めさせないのである。この劫有りて以て人口過剰の数を銷除《せうぢよ》すれば、則ち水火刀兵の諸劫は十の五六を減ずるであらう。けれどもこの罌粟と云ふものは草花に属するものであり、古来世間には多いものである。その又汁も淡薄であるから、熬《がう》して膏とすることは出来ない。故に九幽の主に命じ[#「故に九幽の主に命じ」に傍点]、無間地獄中に不忠不孝無礼義破廉恥諸罪の魂を選び取つてこの間に録送し[#「無間地獄中に不忠不孝無礼義破廉恥
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