つて入る。」それから数門を過ぎて一広庭に至ると、「男女数百を見る。或は立ち、或は坐し、或は臥す。而して皆裸にして寸縷《すんる》無し。堂上に一官坐す。其前に一大|搾牀《さくしやう》を設く。健夫数輩、大鉄叉を執り、任意に男婦を将《も》つて槽内に叉置《さち》し、大石を用つて之を圧搾す。膏血《かうけつ》淋漓《りんり》たり。下に承くるに盆を以てす。盆満つれば即ち巨桶中に※[#「てへん+邑」、第3水準1−84−78]注《いふちう》す。是《かく》の如きもの十余次。巨桶|乃《すなはち》満つ。数人之を扛して出づ。官文書を判して一吏に付し、与《とも》に同じく出づ。」そこで賈が吏の顔を見ると、これはとうに墓の下へはひつた昔の隣人の周達夫《しうたつふ》である。賈は進んで周の名を呼んだ。
「子《し》胡《な》んぞ此に在るか? 此れ豈《あに》久しく留る可《べ》けんや。速《すみやか》に我に従つて出でよ。」
 周は驚いてかう言つた。が、賈は更に桶中《とうちう》の物の何であるかを尋ねて見た。
「鴉片|煙膏《えんかう》なり。」
 鴉片はまだ乾隆の末には今日のやうに流行しなかつた。従つて賈も亦鴉片とは何ものであるかを知らなか
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