。一体ここで物の割れる音なんかするわけがない。泥溜《どろだめ》の中で棺桶が嚔《くさめ》をする。――一枚の板が揺ぶられる。頑丈な釘がうちつけてあるのを恐しい音をさせて軋《きし》ませる。……」
これはポオの「Premature Burial」が大西洋の彼岸に伝へた幾多の反響の一つである。が、そんなことはどうでも好い。僕にちよつと面白かつたのは下に引用する一節である。――
「ところで已《すで》に仏蘭西《フランス》の土地で阿片を造らうとして失敗をつづけ乍《なが》らさまざまに苦心した。東京《トンキン》から持つて来た罌粟《けし》の種子を死骸で肥えた墓地に植ゑて見ると思ひの外に成績がよくてその特徴を発揮させることが出来た。今では、その毒汁で脹らんだ芥子坊主《けしぼうず》を切りさへすれば、望み通りに茶色の涙のやうなものがぼろぼろと滴り落ちて来る。……」
鴉片に死人を想はせるのはフアレエルの作品に始まつたのではない。僕はこの頃漫然と兪※[#「木+越」、第3水準1−86−11]《ゆゑつ》の「右台仙館筆記《うたいせんくわんひつき》」を読んでゐるうちにかう云ふ俗伝は支那人の中にもあつたと云ふことを発見した
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