…」
「何かしら? dua……Majesta……ですか? 1926 としてありますね。」
「これは、ほれ、水葬した死骸《しがい》についていたんじゃないか?」
 O君はこう云う推測を下した。
「だって死骸を水葬する時には帆布か何かに包むだけだろう?」
「だからそれへこの札をつけてさ。――ほれ、ここに釘《くぎ》が打ってある。これはもとは十字架《じゅうじか》の形をしていたんだな。」
 僕等はもうその時には別荘らしい篠垣《しのがき》や松林の間を歩いていた。木札はどうもO君の推測に近いものらしかった。僕は又何か日の光の中に感じる筈《はず》のない無気味さを感じた。
「縁起でもないものを拾ったな。」
「何、僕はマスコットにするよ。……しかし 1906 から 1926 とすると、二十《はたち》位で死んだんだな。二十位と――」
「男ですかしら? 女ですかしら?」
「さあね。……しかし兎《と》に角《かく》この人は混血児《あいのこ》だったかも知れないね。」
 僕はK君に返事をしながら、船の中に死んで行った混血児の青年を想像した。彼は僕の想像によれば、日本人の母のある筈《はず》だった。
「蜃気楼か。」
 O君
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