老年
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)橋場《はしば》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)神田祭の晩|肌守《はだまも》りに
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しぶいさび[#「さび」に傍点]の中に
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橋場《はしば》の玉川軒《ぎょくせんけん》と云《い》う茶式料理屋で、一中節《いっちゅうぶし》の順講があった。
朝からどんより曇っていたが、午《ひる》ごろにはとうとう雪になって、あかりがつく時分にはもう、庭の松に張ってある雪よけの縄《なわ》がたるむほどつもっていた。けれども、硝子《ガラス》戸と障子《しょうじ》とで、二重にしめきった部屋の中は、火鉢のほてりで、のぼせるくらいあたたかい。人の悪い中洲《なかず》の大将などは、鉄無地《てつむじ》の羽織に、茶のきんとうしの御召揃《おめしぞろ》いか何かですましている六金《ろっきん》さんをつかまえて、「どうです、一枚脱いじゃあ。黒油《くろあぶら》が流れますぜ。」と、からかったものである。六金さんのほかにも、柳橋《やなぎばし》のが三人、代地《だいち》の待合の女将《お
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