あの次郎が、親でなかったとしたならば、たれがこの子の親であろう。――阿濃は、この時、歌をうたいながら、遠い所を見るような目をして、蚊に刺されるのも知らずに、うつつながら夢を見た。人間の苦しみを忘れた、しかもまた人間の苦しみに色づけられた、うつくしく、いたましい夢である。(涙を知らないものの見る事ができる夢ではない。)そこでは、いっさいの悪が、眼底を払って、消えてしまう。が、人間の悲しみだけは、――空をみたしている月の光のように、大きな人間の悲しみだけは、やはりさびしくおごそかに残っている。……
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なよや、末の松山
波も越えなむや
波も越えなむ
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歌の声は、ともし火の光のように、次第に細りながら消えていった。そうして、それと共に、力のない呻吟《しんぎん》の声が、暗《やみ》を誘うごとく、かすかにもれ始めた。阿濃《あこぎ》は、歌の半ばで、突然下腹に、鋭い疼痛《とうつう》を感じ出したのである。
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相手の用意に裏をかかれた盗人の群れは、裏門を襲った一隊も、防ぎ矢に射しらまされたのを始めとし
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