あろう。月明かりにすかして見ると、赤黒いものが一すじ、汗ににじんで、左の小鬢《こびん》から流れている。が、死に身になった次郎には、その痛みも気にならない。彼は、ただ、色を失った額に、ひいでた眉《まゆ》を一文字にひそめながら、あたかも太刀《たち》に使われる人のように、烏帽子《えぼし》も落ち、水干《すいかん》も破れたまま、縦横に刃《やいば》を交えているのである。
それがどのくらい続いたか、わからない。が、やがて、上段に太刀をふりかざした侍の一人が、急に半身を後ろへそらせて、けたたましい悲鳴をあげたと思うと、次郎の太刀は、早くもその男の脾腹《ひばら》を斜めに、腰のつがいまで切りこんだのであろう。骨を切る音が鈍く響いて、横に薙《な》いだ太刀の光が、うすやみをやぶってきらりとする。――と、その太刀が宙におどって、もう一人の侍の太刀を、ちょうと下から払ったと見る間に、相手は肘《ひじ》をしたたか切られて、やにわに元《もと》来たほうへ、敗走した。それを次郎が追いすがりざまに、切ろうとしたのと、狩犬の一頭が鞠《まり》のように身をはずませて、彼の手もとへかぶりついたのとが、ほとんど、同時の働きである。彼
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