つ六《む》つ、泥《どろ》だらけの石ころが行儀よく積んである。しかも、そのまん中に、花も葉もひからびた、合歓《ねむ》を一枝立てたのは、おおかた高坏《たかつき》へ添える色紙《しきし》の、心葉《こころば》をまねたものであろう。
それを見ると、気丈な猪熊《いのくま》のばばも、さすがに顔をしかめて、あとへさがった。そうして、その刹那《せつな》に、突然さっきの蛇《ながむし》の死骸《しがい》を思い浮かべた。
「なんだえ。これは。疫病《えやみ》にかかっている人じゃないか。」
「そうさ。とてもいけないというので、どこかこの近所の家《うち》で、捨てたのだろう。これじゃ、どこでも持てあつかうよ。」
次郎はまた、白い齒を見せて、微笑した。
「それを、お前さんはまた、なんだって、見てなんぞいるのさ。」
「なに、今ここを通りかかったら、野ら犬が二三匹、いい餌食《えじき》を見つけた気で、食いそうにしていたから、石をぶつけて、追い払ってやったところさ。わたしが来なかったら、今ごろはもう、腕の一つも食われてしまったかもしれない。」
老婆は、蛙股《かえるまた》の杖《つえ》にあごをのせて、もう一度しみじみ、女のからだ
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