たものの、微笑しない訣には行かなかった。彼女は定めし芸者になっても、厳格な母親の躾《しつ》け通り、枕だけははずすまいと思っているであろう。……
自由
誰も自由を求めぬものはない。が、それは外見だけである。実は誰も肚《はら》の底では少しも自由を求めていない。その証拠には人命を奪うことに少しも躊躇《ちゅうちょ》しない無頼漢さえ、金甌無欠《きんおうむけつ》の国家の為に某某を殺したと言っているではないか? しかし自由とは我我の行為に何の拘束もないことであり、即ち神だの道徳だの或は又社会的習慣だのと連帯責任を負うことを潔しとしないものである。
又
自由は山巓《さんてん》の空気に似ている。どちらも弱い者には堪えることは出来ない。
又
まことに自由を眺めることは直ちに神々の顔を見ることである。
又
自由主義、自由恋愛、自由貿易、――どの「自由」も生憎《あいにく》杯の中に多量の水を混じている。しかも大抵はたまり水を。
言行一致
言行一致の美名を得る為にはまず自己弁護に長じなければならぬ。
方便
一人を欺かぬ聖賢はあっても、天下を欺
前へ
次へ
全83ページ中64ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング