も当らないからね。
 追憶。――地平線の遠い風景画。ちゃんと仕上げもかかっている。
 女。――メリイ・ストオプス夫人によれば女は少くとも二週間に一度、夫に情欲を感ずるほど貞節に出来ているものらしい。
 年少時代。――年少時代の憂欝《ゆううつ》は全宇宙に対する驕慢《きょうまん》である。
 艱難|汝《なんじ》を玉にす。――艱難汝を玉にするとすれば、日常生活に、思慮深い男は到底玉になれない筈である。
 我等如何に生くべき乎《か》。――未知の世界を少し残して置くこと。

   社交

 あらゆる社交はおのずから虚偽を必要とするものである。もし寸毫の虚偽をも加えず、我我の友人知己に対する我我の本心を吐露するとすれば、古《いにし》えの管鮑《かんぽう》の交りと雖《いえど》も破綻《はたん》を生ぜずにはいなかったであろう。管鮑の交りは少時問わず、我我は皆多少にもせよ、我我の親密なる友人知己を憎悪し或は軽蔑《けいべつ》している。が、憎悪も利害の前には鋭鋒《えいほう》を収めるのに相違ない。且《かつ》又軽蔑は多々益々|恬然《てんぜん》と虚偽を吐かせるものである。この故に我我の友人知己と最も親密に交る為めには、
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