、第4水準2−88−74]《うそ》を見つけることである。いや、必ずしもそればかりではない。その又※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]を見つけることに少しも満足を感じないことである。
外見
由来最大の臆病者《おくびょうもの》ほど最大の勇者に見えるものはない。
人間的な
我我人間の特色は神の決して犯さない過失を犯すと云うことである。
罰
罰せられぬことほど苦しい罰はない。それも決して罰せられぬと神々でも保証すれば別問題である。
罪
道徳的並びに法律的範囲に於ける冒険的行為、――罪は畢竟こう云うことである。従って又どう云う罪も伝奇的色彩を帯びないことはない。
わたし
わたしは良心を持っていない。わたしの持っているのは神経ばかりである。
又
わたしは度たび他人のことを「死ねば善い」と思ったものである。しかもその又他人の中には肉親さえ交っていなかったことはない。
又
わたしは度たびこう思った。――「俺があの女に惚《ほ》れた時にあの女も俺に惚れた通り、俺があの女を嫌いになった時にはあの女も俺を嫌いになれば善いのに。」
又
わたしは三十歳を越した後、いつでも恋愛を感ずるが早いか、一生懸命に抒情詩《じょじょうし》を作り、深入りしない前に脱却した。しかしこれは必しも道徳的にわたしの進歩したのではない。唯ちょっと肚《はら》の中に算盤《そろばん》をとることを覚えたからである。
又
わたしはどんなに愛していた女とでも一時間以上話しているのは退窟《たいくつ》だった。
又
わたしは度たび※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]《うそ》をついた。が、文字にする時は兎《と》に角《かく》、わたしの口ずから話した※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]はいずれも拙劣を極めたものだった。
又
わたしは第三者と一人の女を共有することに不平を持たない。しかし第三者が幸か不幸かこう云う事実を知らずにいる時、何か急にその女に憎悪を感ずるのを常としている。
又
わたしは第三者と一人の女を共有することに不平を持たない。しかしそれは第三者と全然見ず知らずの間がらであるか、或は極く疎遠の間がらであるか、どちらかであることを条件としている。
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