ければなりますまい。ところが株屋の方はまたそれがつけ目なので、お敏を妾にする以上、必ずお島婆さんもついて来るに相違ありませんから、そこでこれには相場を占わせて、あわよくば天下を取ろうと云う、色と欲とにかけた腹らしいのです。
が、お敏の身になって見れば、いかに夢現《ゆめうつつ》の中で云う事にしろ、お島婆さんが悪事を働くのは、全く自分の云いつけ通りにするのですから、良心がなければ知らない事、こんな道具に使われるのは空恐しいのに相違ありません。そう云えば前に御話ししたお島婆さんの養女と云うのも、引き取られるからこの役に使われ通しで、ただでさえ脾弱《ひよわ》いのが益々病身になってしまいましたが、とうとうしまいには心の罪に責められて、あの婆の寝ている暇に、首を縊《くく》って死んだと云う事です。お敏が新蔵の家から暇をとったのは、この養女が死んだ時で、可哀そうにその新仏が幼馴染のお敏へ宛てた、一封の書置きがあったのを幸、早くもあの婆は後釜にお敏を据えようと思ったのでしょう。まんまとそれを種に暇を貰わせて、今の住居へおびき寄せると、殺しても主人の所へは帰さないと、強面《こわおもて》に云い渡してしまっ
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