家の後ろの畠《はたけ》。畠には四十に近い女が一人せっせと穂麦を刈り干している。………

   20[#「20」は縦中横]

 長方形の窓を覗《のぞ》いている「さん・せばすちあん」の上半身《かみはんしん》。但し斜めに後ろを見せている。明るいのは窓の外ばかり。窓の外はもう畠《はたけ》ではない。大勢の老若男女の頭が一面にそこに動いている。その又大勢の頭の上には十字架に懸った男女が三人高だかと両腕を拡《ひろ》げている。まん中の十字架に懸った男は全然彼と変りはない。彼は窓の前を離れようとし、思わずよろよろと倒れかかる。――

   21[#「21」は縦中横]

 前の洞穴《ほらあな》の内部。「さん・せばすちあん」は十字架の下の岩の上へ倒れている。が、やっと顔を起し、月明りの落ちた十字架を見上げる。十字架はいつか初《う》い初《う》いしい降誕の釈迦《しゃか》に変ってしまう。「さん・せばすちあん」は驚いたようにこう云う釈迦を見守った後、急に又立ち上って十字を切る。月の光の中をかすめる、大きい一羽の梟《ふくろう》の影。降誕の釈迦はもう一度もとの十字架に変ってしまう。………

   22[#「22」は縦中
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