[#「69」は縦中横]

 後ろを向いた船長の上半身。船長は肩越しに何かを窺《うかが》い、失望に満ちた苦笑を浮べる。それから静かに顋髯《あごひげ》を撫《な》でる。

   70[#「70」は縦中横]

 前の洞穴の内部。船長はさっさと洞穴を出、薄明るい山みちを下って来る。従って山みちの風景も次第に下へ移って来る。船長の後ろからは猿が二匹。船長は樟《くす》の木の下へ来ると、ちょっと立ち止まって帽をとり、誰か見えないものにお時宜《じぎ》をする。

   71[#「71」は縦中横]

 前の洞穴の内部。但し今度も外部に面している。しっかり十字架を握ったまま、岩の上に倒れている「さん・せばすちあん」。洞穴の外部は徐《おもむ》ろに朝日の光を仄《ほの》めかせはじめる。

   72[#「72」は縦中横]

 斜めに上から見おろした岩の上の「さん・せばすちあん」の顔。彼の顔は頬《ほお》の上へ徐ろに涙を流しはじめる、力のない朝日の光の中に。

   73[#「73」は縦中横]

 前の山みち。朝日の光の落ちた山みちはおのずから又もとのように黒いテエブルに変ってしまう。テエブルの左に並んでいるのはスペイ
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