50[#「50」は縦中横]

 洞穴の内部の隅。顋髯《あごひげ》のある死骸《しがい》が一つ岩の壁によりかかっている。

   51[#「51」は縦中横]

 彼等の上半身《かみはんしん》。「さん・せばすちあん」は驚きや恐れを示し、船長に何か話しかける。船長は一こと返事をする。「さん・せばすちあん」は身をすさらせ、慌てて十字を切ろうとする。が、今度も切ることは出来ない。

   52[#「52」は縦中横]

 Judas ………

   53[#「53」は縦中横]

 前の死骸――ユダの横顔。誰かの手はこの顔を捉え、マッサァジをするように顔を撫《な》でる。すると頭は透明になり、丁度一枚の解剖図のようにありありと脳髄を露《あらわ》してしまう。脳髄は始めはぼんやりと三十枚の銀を映している。が、その上にいつの間にかそれぞれ嘲《あざけ》りや憐《あわれ》みを帯びた使徒たちの顔も映っている。のみならずそれ等の向うには家《いえ》だの、湖だの、十字架だの、猥褻《わいせつ》な形をした手だの、橄欖《かんらん》の枝だの、老人だの、――いろいろのものも映っているらしい。………

   54[#「54」は縦中
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