て見せる。

   63[#「63」は縦中横]

 船長の手の上に載った髑髏。髑髏の目からは火取虫《ひとりむし》が一つひらひらと空中へ昇って行《ゆ》く。それから又三つ、二つ、五つ。

   64[#「64」は縦中横]

 前の洞穴の内部の空中。空中は前後左右に飛びかう無数の火取虫に充《み》ち満《み》ちている。

   65[#「65」は縦中横]

 それ等の火取虫の一つ。火取虫は空中を飛んでいるうちに一羽の鷲《わし》に変ってしまう。

   66[#「66」は縦中横]

 前の洞穴の内部。「さん・せばすちあん」はやはり船長にすがり、いつか目をつぶっている。のみならず船長の腕を離れると、岩の上に倒れてしまう。しかし又上半身を起し、もう一度船長の顔を見上げる。

   67[#「67」は縦中横]

 岩の上に倒れてしまった「さん・せばすちあん」の下半身《しもはんしん》。彼の手は体を支えながら、偶然岩の上の十字架を捉える。始めは如何《いか》にも怯《お》ず怯《お》ずと、それから又急にしっかりと。

   68[#「68」は縦中横]

 十字架をかざした「さん・せばすちあん」の手。

   69[#「69」は縦中横]

 後ろを向いた船長の上半身。船長は肩越しに何かを窺《うかが》い、失望に満ちた苦笑を浮べる。それから静かに顋髯《あごひげ》を撫《な》でる。

   70[#「70」は縦中横]

 前の洞穴の内部。船長はさっさと洞穴を出、薄明るい山みちを下って来る。従って山みちの風景も次第に下へ移って来る。船長の後ろからは猿が二匹。船長は樟《くす》の木の下へ来ると、ちょっと立ち止まって帽をとり、誰か見えないものにお時宜《じぎ》をする。

   71[#「71」は縦中横]

 前の洞穴の内部。但し今度も外部に面している。しっかり十字架を握ったまま、岩の上に倒れている「さん・せばすちあん」。洞穴の外部は徐《おもむ》ろに朝日の光を仄《ほの》めかせはじめる。

   72[#「72」は縦中横]

 斜めに上から見おろした岩の上の「さん・せばすちあん」の顔。彼の顔は頬《ほお》の上へ徐ろに涙を流しはじめる、力のない朝日の光の中に。

   73[#「73」は縦中横]

 前の山みち。朝日の光の落ちた山みちはおのずから又もとのように黒いテエブルに変ってしまう。テエブルの左に並んでいるのはスペイ
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