横]

 前の洞穴の内部の隅。岩の壁によりかかった死骸は徐ろに若くなりはじめ、とうとう赤児に変ってしまう。しかしこの赤児の顋《あご》にも顋髯だけはちゃんと残っている。

   55[#「55」は縦中横]

 赤児の死骸の足のうら。どちらの足のうらもまん中に一輪ずつ薔薇《ばら》の花を描いている。けれどもそれ等は見る見るうちに岩の上へ花びらを落してしまう。

   56[#「56」は縦中横]

 彼等の上半身《かみはんしん》。「さん・せばすちあん」は愈《いよいよ》興奮し、何か又船長に話しかける。船長は何とも返事をしない。が、殆《ほとん》ど厳粛に「さん・せばすちあん」の顔を見つめている。

   57[#「57」は縦中横]

 半ば帽子のかげになった、目の鋭い船長の顔。船長は徐ろに舌を出して見せる。舌の上にはスフィンクスが一匹。

   58[#「58」は縦中横]

 前の洞穴《ほらあな》の内部の隅。岩の壁によりかかった赤児の死骸《しがい》は次第に又変りはじめ、とうとうちゃんと肩車をした二匹の猿になってしまう。

   59[#「59」は縦中横]

 前の洞穴の内部。船長は「さん・せばすちあん」に熱心に何か話しかけている。が、「さん・せばすちあん」は頭を垂れたまま、船長の言葉を聞かずにいるらしい。船長は急に彼の腕を捉《とら》え、洞穴の外部を指さしながら、彼に「見ろ」と云う手真似《てまね》をする。

   60[#「60」は縦中横]

 月の光を受けた山中の風景。この風景はおのずから「磯ぎんちゃく」の充満した、嶮《けわ》しい岩むらに変ってしまう。空中に漂う海月《くらげ》の群。しかしそれも消えてしまい、あとには小さい地球が一つ広い暗《やみ》の中にまわっている。

   61[#「61」は縦中横]

 広い暗の中にまわっている地球。地球はまわるのを緩めるのに従い、いつかオレンジに変っている。そこへナイフが一つ現れ、真二つにオレンジを截《き》ってしまう。白いオレンジの截断面《せつだんめん》は一本の磁針を現している。

   62[#「62」は縦中横]

 彼等の上半身《かみはんしん》。「さん・せばすちあん」は船長にすがったまま、じっと空中を見つめている。何か狂人に近い表情。船長はやはり冷笑したまま、睫毛《まつげ》一つ動かさない。のみならず又マントルの中から髑髏《どくろ》を一つ出し
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