]の先《さき》に、重たくうす暗《くら》い雲《くも》を支へてゐる。
どうにもならない事を、どうにかする爲には、手段《しゆだん》を選んでゐる遑《いとま》はない。選んでゐれば、築土《ついぢ》の下か、道ばたの土の上で、饑死《うゑじに》をするばかりである。さうして、この門の上へ持つて來て、犬《いぬ》のやうに棄《す》てられてしまふばかりである。選《えら》ばないとすれば――下人の考へは、何度《なんど》も同じ道を低徊した揚句《あげく》に、やつとこの局所へ逢着《はうちやく》した。しかしこの「すれば」は、何時《いつ》までたつても、結局「すれば」であつた。下人は、手段《しゆだん》を選ばないといふ事を肯定《こうてい》しながらも、この「すれば」のかたをつける爲に、當然《たうぜん》、その後に來る可き「盗人《ぬすびと》になるより外に仕方《しかた》がない」と云ふ事を、積極的《せきゝよくてき》に肯定する丈の、勇氣が出ずにゐたのである。
下人は、大きな嚏《くさめ》をして、それから、大儀さうに立上つた。夕冷《ゆふひ》えのする京都は、もう火桶《ひをけ》が欲しい程の寒さである。風は門の柱《はしら》と柱との間を、夕闇と共に遠
前へ
次へ
全17ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング