はむとするものに遭遇したり。是、寿永元暦の革命が、漸くに其光茫を現さむとするを徴するものにあらずや。
かくの如くにして、平氏政府は、浮島の如く、其根柢より動揺し来れり。然れ共、吾人は更に恐るべき一勢力が、平氏に対して終始、反抗的態度を、渝へざりしを忘るべからず。
更に恐るべき一勢力とは何ぞや。曰く南都北嶺の僧兵也。僧兵なりとて妄に笑ふこと勿れ。時代と相容るゝ能はざる幾多、不覇不絆の快男児が、超世の奇才を抱いて空しく三尺の蒿下に槁死することを得ず。遂に南都北嶺の緇衣軍に投じて、僅にその幽憤をやらむとしたる、彼等の心事豈憫む可からざらむや。請ふ再吾人をして、彼等不平の徒を生ぜしめたる、当時の社会状態を察せしめよ。
平和の時代に於ける、唯一の衛生法は、すべてのものに向つて、自由競争を与ふるにあり。而して覇権一度、相門を去るや、平氏が空前の成功は、平家幾十の※[#「糸+乞」、第3水準1−89−89]袴子をして、富の快楽に沈酔せしむると同時に、又藤原氏六百年の太平の齎せる、門閥の流弊をも、蹈襲せしめたり。是に於て平氏政府は、其最も危険なる平和の時代に於て、新しき活動と刺戟とを鼓吹すべき、自由競争
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