と、完く両立する能はざるアンチポヂスに立つに至りぬ。かくの如くにして社会の最も健全なる部分が、漸に平氏政府の外に集りたる、幾多の智勇弁力の徒が既に、平氏政府の敵となれる、而して平氏政府に於ける、位爵と実力とが将に反比例せむとするの滑稽を生じたる、亦宜ならずとせむや。此時にして、高材逸足の士、其手腕を振はむとする、明君の知己に遇ふ、或は可也。賢相の知遇を蒙る、亦或は可也。然れ共、若し遇ふ能はずンば、彼等は千里の駿足を以て、彼等の轗軻に泣き、彼等の不遇に歎じ、拘文死法の中に宛転しつゝ、空しく槽櫪の下に朽死せざる可からず。夫、呑舟の大魚は小流に遊ばず。「男児志願是功名」の壮志を負へる彼等にして無意義なる繩墨の下に其自由の余地を束縛せられむとす。是豈彼等の堪ふる所ならむや。
是に於て、彼等の或者が、「衆人皆酔我独醒」を哂ひて佯狂の酒徒となれるが如き、彼等の或者が麦秀の悲歌を哀吟して風月三昧の詩僧となれるが如き、はた、彼等の或者が、満腔の壮心と痛恨とを抱き去つて南都北嶺の円頂賊に投ぜしが如き、素より亦怪しむに足らざる也。加ふるに彼等僧兵の群中には幾多、市井の悪少あり、幾多山林の狡賊あり、而して後
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