、朝家を挾ンで天下に号令するの、天下をして背く能はざらしむる所以なるを見たり。
而して彼は、宣旨院宣、共に平氏の手中に存するの時に於て、九重雲深く濛として、日月を仰ぐ能はざるの時に於て、革命の壮図を鼓舞せしむるに足るは、唯、竹園の令旨のみなるを見たり。然り、最も天下の同情を有する竹園の令旨のみなるを見たり。彼が以仁王を擁立したる所以は、実に職として是に存す。かくの如くにして彼の陰謀は、歩一歩より実際の活動に近き来れり。而して治承四年五月、革命の旗は遂に、皓首の彼と長袖の宮との手によつて、飜されたり。天下焉ぞ雲破れて青天を見るの感なきを得むや。
然れ共、彼、事を南都に挙げむとして得ず、平軍是を宇治橋に要し、宇治川を隔てて大に戦ふ。剣戟相交ること一日。平軍既に鞭を宇治川に投じ流を断つて、源軍に迫る。是に於て革命軍の旗幟頻に乱れ、源軍討たるゝ者数を知らず。驍悍を以て天下に知られたる渡辺党亦算を乱して仆れ、赤旗平等院を囲むこと竹囲の如し。弓既に折れ箭既に尽く、英風一世を掩へる源三位も遂に其一族と共に自刃して亡び、高倉宮亦南都に走らむとして途に流矢に中りて薨じ給ひぬ。かくして革命軍の急先鋒は、空
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