でしまおうと思っている。」
 友人たちは私の言葉を聞くと、言い合せたように、反対し始めました。これだけの大金を元の石炭にしてしまうのは、もったいない話だと言うのです。が、私はミスラ君に約束した手前もありますから、どうしても暖炉に抛りこむと、剛情《ごうじょう》に友人たちと争いました。すると、その友人たちの中でも、一番|狡猾《こうかつ》だという評判のあるのが、鼻の先で、せせら笑いながら、
「君はこの金貨を元の石炭にしようと言う。僕たちはまたしたくないと言う。それじゃいつまでたった所で、議論が干《ひ》ないのは当り前だろう。そこで僕が思うには、この金貨を元手にして、君が僕たちと骨牌《かるた》をするのだ。そうしてもし君が勝ったなら、石炭にするとも何にするとも、自由に君が始末するが好《い》い。が、もし僕たちが勝ったなら、金貨のまま僕たちへ渡し給え。そうすれば御互の申し分も立って、至極満足だろうじゃないか。」
 それでも私はまだ首を振って、容易にその申し出しに賛成しようとはしませんでした。所がその友人は、いよいよ嘲《あざけ》るような笑《えみ》を浮べながら、私とテエブルの上の金貨とを狡《ず》るそうにじ
前へ 次へ
全18ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング