渡す限りの野菜畑ですね。」
「サッサンラップ島の住民は大部分野菜を作るのです。男でも女でも野菜を作るのです。」
「そんなに需要があるものでしょうか?」
「近海の島々へ売れるのです。が、勿論売れ残らずにはいません。売れ残ったのはやむを得ず積み上げて置くのです。船の上から見えたでしょう、ざっと二万|呎《フィイト》も積み上っているのが?」
「あれがみんな売れ残ったのですか? あの野菜のピラミッドが?」
僕は老人の顔を見たり、目ばかりぱちぱちやるほかはなかった。が、老人は不相変《あいかわらず》面白そうにひとり微笑している。
「ええ、みんな売れ残ったのです。しかもたった三年の間にあれだけの嵩《かさ》になるのですからね。古来の売れ残りを集めたとしたら、太平洋も野菜に埋《うず》まるくらいですよ。しかしサッサンラップ島の住民は未だに野菜を作っているのです。昼も夜も作っているのです。はははははは、我々のこうして話している間《あいだ》も一生懸命に作っているのです。はははははは、はははははは。」
老人は苦しそうに笑い笑い、茉莉花《まつりか》の匂《におい》のするハンカチイフを出した。これはただの笑いではな
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