り》を見つけて来たぜ。」
 金三は二本芽を表わすために、上を向いた鼻の先へ両手の人さし指を揃《そろ》えて見せた。
「二本芽のね?」
 良平は思わず目を見張った。一つの根から芽の二本出た、その二本芽の百合と云うやつは容易に見つからない物だったのである。
「ああ、うんと太い二本芽のね、ちんぼ芽のね、赤芽のね、……」
 金三は解けかかった帯の端に顔の汗を拭きながら、ほとんど夢中にしゃべり続けた。それに釣りこまれた良平もいつか膳《ぜん》を置きざりにしたまま、流し元の框《かまち》にしゃがんでいた。
「御飯を食べてしまえよ。二本芽でも赤芽でも好《い》いじゃないか。」
 母はだだ広《びろ》い次の間《ま》に蚕《かいこ》の桑《くわ》を刻《きざ》み刻み、二三度良平へ声をかけた。しかし彼はそんな事も全然耳へはいらないように、芽はどのくらい太いかとか、二本とも同じ長さかとか、矢つぎ早に問を発していた。金三は勿論《もちろん》雄弁だった。芽は二本とも親指より太い。丈《たけ》も同じように揃っている。ああ云う百合は世界中にもあるまい。………
「ね、おい、良ちゃん。今直《いますぐ》見にあゆびよう[#「あゆびよう」に傍点
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