しちゃよく活動を見に行ったんですが、どうした訳か、ぱったりその人が写真に出てこなくなってしまったんです。いつ行って見ても、「名金《めいきん》」だの「ジゴマ」だのって、見たくも無いものばかりやっているじゃありませんか。しまいには私も、これはもう縁がないもんだとさっぱりあきらめてしまったんです。それがあなた……」
ほかの連中が相手にならないもんだから、お徳は僕一人をつかまえて、しゃべっているんだ。それも半分泣き声でさ。
「それがあなた、この土地へ来て始めて活動へ行った晩に、何年ぶりかでその人が写真に出て来たじゃありませんか。――どこか西洋の町なんでしょう。こう敷石があって、まん中に何だか梧桐《あおぎり》みたいな木が立っているんです。両側はずっと西洋館でしてね。ただ、写真が古いせいか、一体に夕方みたいにうすぼんやり黄いろくって、その家《うち》や木がみんな妙にぶるぶるふるえていて――そりゃさびしい景色なんです。そこへ、小さな犬を一匹つれて、その人があなた煙草をふかしながら、出て来ました。やっぱり黒い服を着て、杖をついて、ちっとも私が子供だった時と変っちゃいません……」
ざっと十年ぶりで、恋
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