変遷その他
芥川龍之介

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)万法《ばんぽふ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)従来|衣魚《しみ》と

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十四年八月)
−−

     変遷

 万法《ばんぽふ》の流転《るてん》を信ずる僕と雖《いへど》も、目前《もくぜん》に世態《せたい》の変遷《へんせん》を見ては多少の感慨なきを得ない。現にいつか垣の外に「茄子《なすび》の苗《なへ》や胡瓜《きうり》の苗、……ヂギタリスの苗や高山植物の苗」と言ふ苗売りの声を聞いた時にはしみじみ時好《じかう》の移つたことを感じた。が、更に驚いたのはこの頃ふと架上《かじやう》の書を縁側の日の光に曝《さら》した時である。僕は従来|衣魚《しみ》と言ふ虫は決して和本や唐本《たうほん》以外に食はぬものと信じてゐた。けれども千九百二十五年の衣魚《しみ》は舶来本の背などにも穴をあけてゐる。僕はこの衣魚の跡を眺めた時に進化論を思ひ、ラマルクを思ひ、日本文化の上に起つた維新《ゐしん》以後六十年の変遷を思つた。三十
次へ
全8ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング