ず。「毛脛」を「けずね[#「ずね」に白丸傍点]」といふよりすれば、「つねずね[#「ずね」に白丸傍点]」亦「常脛」ならざらむや。「小面」の「ずら[#「ずら」に白丸傍点]」も亦然り。若し夫「葉じや[#「じや」に白丸傍点]屋」に至つては、誰か「茶屋」を「ちやや」と書き、「葉茶屋」を「葉じや[#「じや」に白丸傍点]屋」と書かむとするものぞ。これを強ひて書かしめむとするは僕等の理性の尊厳を失はしめむとするものなり。東京人の発音の不正確なる、常に「じ[#「じ」に白丸傍点]」と「ぢ[#「ぢ」に白丸傍点]」とを分たず、「ず[#「ず」に白丸傍点]」と「づ[#「づ」に白丸傍点]」とを分たざるは事実たるに近かるべし。然れども直ちにこれを以て「ぢ[#「ぢ」に白丸傍点]」「づ[#「づ」に白丸傍点]」を廃し去るも可なりと言はば、天日豈長安よりも遠からむや。国語調査会の委員諸公は悉聡明練達の士なり。理性の尊厳を無視するの危険は諸君も亦明らかに知る所なるべし。然れども諸公の為す所を見れば、殆ど地球の泥団たるを信ぜず、二等辺三角形の頂角の二等分線は底辺を二等分するをも信ぜざるに似たり。雑誌「明星」同人は諸公を以て「新し
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