を認め難きは上に弁じたる所なり。卒然としてこの改定案を示し、恬然として責任を果したりと做す、誰か我謹厳なる委員諸公の無邪気に驚かざらむや。然れども簡を尊ぶは滔々たる時代の風潮なり。甘粕大尉の大杉栄を殺し、中岡|艮一《こんいち》の原敬を刺せるも皆この時代の風潮に従へるものと言はざるべからず。然らば我委員諸公の簡を愛すること、醍醐の如くなるも或は驚くに足らざるべし。宜《むべ》なるかな、南園白梅の花、寿陽公主の面上に落ちて、梅花粧の天下を風靡したるや。然れども仮名遣改定案は単に我が日本語の堕落を顧みざるのみならず、又実に天下をして理性の尊厳を失はしむるものなり。たとへば「ぢ[#「ぢ」に白丸傍点]」「づ[#「づ」に白丸傍点]」を廃するを見よ。「ぢ[#「ぢ」に白丸傍点]」「づ[#「づ」に白丸傍点]」にして絶対に廃せられむ乎。「常々小面憎い葉茶屋の亭主」は「つねずね[#「ずね」に白丸傍点]こずら[#「ずら」に白丸傍点]憎い葉じや[#「じや」に白丸傍点]屋の亭主」と書かざるべからず。「つね」の「づね[#「づね」に白丸傍点]」に変ずるは理解すべし。「ずね[#「ずね」に白丸傍点]」に変ずるは理解すべから
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