文部省の仮名遣改定案について
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)孝雄《よしお》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)山田|孝雄《よしお》氏

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ゐ[#「ゐ」に白丸傍点]
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 我文部省の仮名遣改定案は既に山田|孝雄《よしお》氏の痛撃を加へたる所なり。(雑誌「明星」二月号参照)山田氏の痛撃たる、尋常一様の痛撃にあらず。その当に破るべきを破つて寸毫の遺憾を止めざるは殆どサムソンの指動いてペリシデのマツチ箱のつぶるるに似たり。この山田氏の痛撃の後に仮名遣改定案を罵らむと欲す、誰か又蒸気ポンプの至れる後、龍吐水を持ち出すの歎なきを得むや。然れども思へ、火を滅せむには一杓の水も用なしと做《な》さず。況や一条龍吐水の水をや。是僕の創見なきを羞ぢず、消防に加はらむとする所以なり。
 我文部省の仮名遣改定案は漫然と「改定」を称すれども、何に依つて改定せるかを明らかにせず。勿論政府の命ずる所の何に依るかを明らかにせざるは必しも咎むべからざるに似たり。僕は銀座街頭を行くに常に左
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