たつもりである。唯「日本の小説に最も欠けてゐるところは、此の構成する力、いろいろ入り組んだ筋を幾何学的に組み立てる才能にある」かどうか、その点は僕は無造作に谷崎氏の議論に賛することは出来ない。我々日本人は「源氏物語」の昔からかう云ふ才能を持ち合せてゐる。単に現代の作家諸氏を見ても、泉鏡花氏、正宗白鳥氏、里見|※[#「弓+椁のつくり」、第3水準1−84−22]《とん》氏、久米正雄氏、佐藤春夫氏、宇野浩二氏、菊池寛氏等を数へられるであらう。しかもそれ等の作家諸氏の中にも依然として異彩を放つてゐるのは「僕等の兄」谷崎潤一郎氏自身である。僕は決して谷崎氏のやうに我々東海の孤島の民に「構成する力」のないのを悲しんでゐない。
この「構成する力」の問題はまだ何十行でも論ぜられるであらう。しかしその為には谷崎氏の議論のもう少し詳しいのを必要としてゐる。唯|次手《ついで》に一言すれば、僕はこの「構成する力」の上では我々日本人は支那人よりも劣つてゐるとは思つてゐない。が、「水滸伝《すゐこでん》」「西遊記《さいいうき》」「金瓶梅《きんぺいばい》」「紅楼夢《こうろうむ》」「品花宝鑑《ひんくわはうかん》」等の
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