りこの写生文の建築師のうちに数へなければならぬ。(勿論「俳諧師」の作家高浜氏の小説の上に残した足跡は別に勘定するのである。)けれども僕等の散文が詩人たちの恩を蒙《かうむ》つたのは更に近い時代にもない訣ではない。ではそれは何かと言へば、北原白秋氏の散文である。僕等の散文に近代的な色彩や匂を与へたものは詩集「思ひ出」の序文だつた。かう云ふ点では北原氏の外に木下|杢太郎《もくたらう》氏の散文を数へても善い。
現世の人々は詩人たちを何か日本のパルナスの外に立つてゐるやうに思つてゐる。が、何も小説や戯曲はあらゆる文芸上の形式と没交渉に存在してゐる訣ではない。詩人たちは彼等の仕事の外にもやはり又僕等の仕事にいつも影響を与へてゐる。それは別に上に書いた事実の証明するばかりではない。僕等と同時代の作家たちの中に詩人佐藤春夫、詩人|室生犀星《むろふさいせい》、詩人久米正雄等の諸氏を数へることは明らかに僕の説を裏書きするものである。いや、それ等の作家ばかりではない。最も小説家らしい里見|※[#「弓+椁のつくり」、第3水準1−84−22]《とん》氏さへ幾篇かの詩を残してゐる筈である。
詩人たちは或は彼等
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