た、切利支丹《キリシタン》宗徒の手になつた、ほんものの原文を蔵してゐると感違ひをし、五百円の手附金を送つて、買入れ方を申込んだ人があつた。気毒《きのどく》でもあつたが可笑《をか》しくもあつた。
 その後《ご》、長崎の浦上《うらかみ》の天主教会のラゲといふ僧侶に出会つたことがあつた。その際、ラゲさんと「きりしとほろ上人伝」の話を交《かは》した。ラゲさんは、自分の生国《しやうこく》が、クリストフが嘗《かつ》て居住してゐた土地であるといふ話し等《など》が出たので、一寸《ちよつと》因縁《いんねん》をつけて考へたものであつた。
 将来どんな作品を出すかといふ事に対しては、恐らく、誰《たれ》でも確かな答へを与へることは出来ないだらうと思ふ。小説などといふものは、他の事業とは違つて、プログラムを作つて、取りかかる訣《わけ》にはゆかない。併し、僕は今後、ますます自分の博学ぶりを、或は才人ぶりを充分に発揮《はつき》して、本格小説、私《わたくし》小説、歴史小説、花柳《くわりう》小説、俳句、詩、和歌|等《とう》、等と、その外《ほか》知つてるものを教へてくれれば、なんでもかきたいと思つてゐる。
 壺《つぼ》や
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