んな》、貞享《ぢやうきやう》を経、元禄七年に長逝した。すると芭蕉の一生は怪談小説の流行の中に終始したものと云はなければならぬ。この為に芭蕉の俳諧も――殊にまだ怪談小説に対する一代の興味の新鮮だつた「虚栗《みなしぐり》」以前の俳諧は時々鬼趣を弄《もてあそ》んだ、巧妙な作品を残してゐる。たとへば下の例に徴するが好い。

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小夜嵐《さよあらし》とぼそ落ちては堂の月    信徳《しんとく》
 古入道は失せにけり露      桃青《たうせい》

 から尻沈む淵はありけり     信徳
小蒲団に大蛇《をろち》の恨み鱗形《うろこがた》      桃青

気違《きちがひ》を月のさそへば忽《たちまち》に      桃青
 尾を引ずりて森の下草      似春《じしゆん》

 夫《つま》は山伏あまの呼び声      信徳
一念の※[#「魚+檀のつくり」、第3水準1−94−53]《うなぎ》となつて七《なな》まとひ     桃青

骨刀《こつがたな》土器鍔《かはらけつば》のもろきなり      其角
 痩せたる馬の影に鞭うつ     桃青

 山彦嫁をだいてうせけり     其角
忍びふ
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