の墓地へ歩いて行った。
 大銀杏《おおいちょう》の葉の落ち尽した墓地は不相変《あいかわらず》きょうもひっそりしていた。幅の広い中央の砂利道にも墓参りの人さえ見えなかった。僕はK君の先に立ったまま、右側の小みちへ曲って行った。小みちは要冬青《かなめもち》の生け垣や赤※[#「金+肅」、第3水準1−93−39]《あかさび》のふいた鉄柵《てつさく》の中に大小の墓を並べていた。が、いくら先へ行っても、先生のお墓は見当らなかった。
「もう一つ先の道じゃありませんか?」
「そうだったかも知れませんね。」
 僕はその小みちを引き返しながら、毎年十二月九日には新年号の仕事に追われる為、滅多に先生のお墓参りをしなかったことを思い出した。しかし何度か来ないにしても、お墓の所在のわからないことは僕自身にも信じられなかった。
 その次の稍《やや》広い小みちもお墓のないことは同じだった。僕等は今度は引き返す代りに生け垣の間を左へ曲った。けれどもお墓は見当らなかった。のみならず僕の見覚えていた幾つかの空き地さえ見当らなかった。
「聞いて見る人もなし、………困りましたね。」
 僕はこう言うK君の言葉にはっきり冷笑に近
前へ 次へ
全8ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング