微笑
芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)久米正雄《くめまさを》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)或|暮方《くれがた》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十四年)
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 僕が大学を卒業した年の夏、久米正雄《くめまさを》と一緒《いつしよ》に上総《かづさ》の一《いち》ノ宮《みや》の海岸に遊びに行つた。それは遊びに行つたといつても、本を読んだり、原稿を書いたりしてゐたには違ひないが、まあ一日の大部分は海にはひつたり、散歩したりして暮してゐた。
 或|暮方《くれがた》、僕等は一《いち》ノ宮《みや》の町へ散歩に行き、もう人の顔も見えない頃、ぶらぶら宿の方へ帰つて来た。道は宿へ辿《たど》り着くためには、弘法麦《こうぼふむぎ》や防風《ばうふう》の生えた砂山を一つ越えなければならぬ。丁度《ちやうど》、その砂山の上に来た時、久米《くめ》は何か叫ぶが早いか一目散《いちもくさん》に砂山を駆《か》け降《お》りて行つた。僕はどうしたのだかわからなかつたが、兎《と》に角《かく》、何か駆けなければな
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