#「はるれや」に傍線]、はるれや[#「はるれや」に傍線]と唱へ居り候。加之《しかのみならず》、右紅毛人の足下《あしもと》には、篠、髪を乱し候儘、娘|里《さと》を掻き抱き候うて、失神致し候如く、蹲《うづくま》り居り候。別して、私眼を驚かし候は、里、両手にてひしと、篠|頸《うなじ》を抱き居り、母の名とはるれや[#「はるれや」に傍線]と、代る代る、あどけ無き声にて、唱へ居りし事に御座候。尤も、遠眼の事とて、確《しか》とは弁《わきま》へ難く候へども、里血色至極|麗《うるは》しき様に相見え、折々母の頸より手を離し候うて、香炉様の物より立ち昇り候煙を捉へんとする真似など致し居り候。然れば、私馬より下り、里蘇生致し候次第に付き、村方の人々に委細相尋ね候へば、右紅毛の伴天連《ばてれん》ろどりげ[#「ろどりげ」に傍線]儀、今朝《こんてう》、伊留満《いるまん》共相従へ、隣村より篠宅へ参り、同人|懺悔《こひさん》聞き届け候上、一同宗門仏に加持致し、或は異香を焚《た》き薫《くゆ》らし、或は神水を振り濺《そそ》ぎなど致し候所、篠の乱心は自《おのづか》ら静まり、里も程無く蘇生致し候由、皆々恐しげに申し聞かせ候。古
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