とすれば、又茶碗を茶碗たらしめるものを茶碗と云ふ形式にありとすれば、発句を発句たらしめるものもやはり発句と云ふ形式、――即ち十七音にある訣である。
二 季題
発句は必しも季題を要しない。今日季題と呼ばれるものは玉葱《たまねぎ》、天の川、クリスマス、薔薇、蛙、ブランコ、汗、――いろいろのものを含んでゐる。従つて季題のない発句を作ることは事実上反つて容易ではない。しかし容易ではないにもせよ、森羅万象を季題としない限り、季題のない発句も出来る筈である。
元来季題とは何かと言へば、名月、夜長などと云ふ詩語の外は大抵僕等の家常茶飯に使つてゐる言葉ばかりである。詩語は勿論詩語としての文芸的価値を持つてゐるであらう。しかしその他の当り前の言葉――たとへば玉葱、天の川等を特に季題とすることは寧《むし》ろ句作には有害である。僕等はこれ等の当り前の言葉を特に季題とする為に季感と呼ばれるものを生じ、反《かへ》つて流俗の見に陥り易い。それから今日の農芸や園芸は在来の春夏秋冬のうちに草花や果物や蔬菜《そさい》などを収められぬ位に発達してゐる。
発句は少しも季題を要しない。寧ろ季題は無用で
前へ
次へ
全5ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
芥川 竜之介 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング