八宝飯
芥川龍之介
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)今東光《こんとうくわう》君
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)亦|石敢当《せきかんたう》の
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(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)姓源珠※[#「王+幾」、第3水準1−88−28]《せいげんしゆき》
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石敢当
今東光《こんとうくわう》君は好学の美少年、「文芸春秋」二月号に桂川中良の桂林漫録を引き、大いに古琉球風物詩集《こりうきゆうふうぶつししふ》の著者、佐藤惣之助君の無学を嗤《わら》ふ。瀟麗《しゆくれい》の文章風貌に遜《あきた》らず、風前の玉樹も若《し》かざるものあり。唯疑ふ、今君亦|石敢当《せきかんたう》の起源を知るや否や。今《こん》君は桂川中良と共に姓源珠※[#「王+幾」、第3水準1−88−28]《せいげんしゆき》の説を信ずるものなり。されど石敢当に関する説は姓源珠※[#「王+幾」、第3水準1−88−28]に出づるのみにあらず、顔師古《がんしこ》が急就章《きふしうしやう》(史游)の註にも、「衛有石※[#「石+昔」、186−上−10]鄭有石癸斉有石之紛如其後亦以命族石敢当」とあり。その何れを正しとすべき乎《か》、何人も疑ひなき能はざるべし。徐氏筆精に云ふ「二説大不相※[#「にんべん+牟」、第3水準1−14−22]亦日用不察者也」と。然らばその起源を知らざるもの、豈《あに》佐藤惣之助君のみならんや。桂川中良も亦知らざるなり。今東光も亦知らざるなり。知らざるを以て知らざるを嗤《わら》ふ、山客亦何ぞ嗤はざるを得んや。按《あん》ずるに鍾馗《しようき》大臣の如き、明皇《めいくわう》夢中に見る所と做《な》すは素《もと》より稗官《ひくわん》の妄誕《まうたん》のみ。石敢当も亦実在の人物ならず、無何有郷裡《むかいうきやうり》の英雄なるべし。もし又更に大方《おほかた》の士人、石敢当の出処を知らんと欲せば、秋風|禾黍《くわしよ》を動かすの辺、孤影蕭然たる案山子《かかし》に問へ。
猥談
聞説す、我鬼《がき》先生、佐佐木味津三君の文を称し、猥談《わいだん》と題するを勧《すす》めたりと。何ぞその無礼なるや。佐佐木君は温厚の君子、幸ひに先生の言を容《い》れ、君が日星河岳《じつせいかがく》の文字に自ら題して猥談と云ふ。君もし血気の壮士なりとせんか、当《まさ》に匕首《あひくち》を懐にして、先生を刺さんと誓ひしなるべし。その文を猥談と称するもの明朝に枝山《しざん》祝允明《しゆくいんめい》あり。允明、字は希哲《きてつ》、少《をさな》きより文辞を攻め、奇気|甚《はなはだ》縦横なり。一たび筆を揮《ふる》ふ時は千言立ちどころに就《な》ると云ふ。又書名あり。筆法|遒勁《いうけい》、風韻蕭散と称せらる。その内外の二祖、咸《み》な当時の魁儒《くわいじゆ》たるに因《よ》り、希哲の文、典訓を貫綜《くわんそう》し、古今を茹涵《じよかん》す。大名ある所以《ゆゑん》なり。然りと雖《いへど》も佐佐木君は東坡《とうは》再び出世底の才人、枝山等の遠く及ぶ所にあらず。この人の文を猥談と呼ぶは明珠《めいしゆ》を魚目《うをめ》と呼ぶに似たり。山客、偶《たまたま》「文芸春秋」二月号を読み、我鬼先生の愚を嗤《わら》ふと共に佐佐木君の屈《くつ》を歎かんと欲す。佐佐木君、請ふ、安心せよ。君を知るものに山客あり矣《い》。
赤大根
江口君はプロレタリアの文豪なり。「文芸春秋」二月号に「切り捨御免」の一文を寄す。論旨は昆吾《こんご》と鋭を争ひ、文辞は卞王《べんわう》と光を競ふ。真に当代の盛観なり。江口君論ずらく、「星霜を閲《けみ》すること僅に一歳、プロレタリアの論客は容易に論壇を占領せり」と。何ぞその壮烈なる。江口君又論ずらく、「創作壇の一の木戸《きど》、二の木戸、本丸も何時かは落城の憂目《うきめ》を見ん」と。何ぞその悠悠たる。江口君三たび論ずらく、「プロレタリア文学勃興と共に、俄《には》かに色を染め加へし赤大根《あかだいこん》の輩出山の如し」と。何ぞその痛快なる。唯山客の頑愚《ぐわんぐ》なる、もしプロレタリアに急変したる小説家、批評家、戯曲家を呼ぶに赤大根を以てせんか、その論壇を占領し、又かの創作壇の一の木戸、二の木戸、乃至《ないし》本丸さへ占領せんとする諸先生も赤大根にあらざるや否や、多少の疑問なき能はず。且《かつ》山客の所見によれば、赤大根の繁殖したるはプロレタリア文芸の勃興以前、隣邦|露西亜《ロシア》の革命に端を発するものの如し。もし然りとせば江口君も、古色愛すべき赤大根のみ。もし又君の為に然らずとせんか、かの近来の赤大根は君の小説に感奮し、君の評論に
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