うけあひ》をしたが最期《さいご》、碌《ろく》な事はありません。わたしが不快な目に遇《あ》はなければ、必《かならず》あなたが不快な目に遇ひます。
編輯者 人生意気に感ずと云ふぢやありませんか? 一つ意気に感じて下さい。
作家 出来合ひの意気ぢや感じませんね。
編輯者 そんなに理窟《りくつ》ばかり云つてゐずに、是非《ぜひ》何か書いて下さい。わたしの顔を立てると思つて。
作家 困りましたね。ぢやあなたとの問答でも書きませう。
編輯者 やむを得なければそれでもよろしい。ぢや今月中に書いて貰ひます。
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覆面《ふくめん》の人、突然|二人《ふたり》の間《あひだ》に立ち現る。
[#ここで字下げ終わり]
覆面の人 (作家に)貴様《きさま》は情《なさけ》ない奴《やつ》だな。偉らさうな事を云つてゐるかと思ふと、もう一時の責塞《せめふさ》ぎに、出たらめでも何《なん》でも書かうとしやがる。おれは昔バルザツクが、一晩に素破《すば》らしい短篇を一つ、書き上げる所を見た事がある。あいつは頭に血が上《あが》ると、脚湯《きやくたう》をしては又書くのだ。あの凄《すさ》まじい精力を思へば、
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