れて御覧なさい。
編輯者 いや、損にはなりませんよ。無名の士の作品を載せる時には、善《よ》ければ善い、悪ければ悪いで、責任を負ふのは雑誌社ですが、有名な大家の作品になると、善悪とも責任を負ふものは、何時《いつ》もその作家にきまつてゐますから。
作家 それぢやなほ更《さら》引き受けられないぢやありませんか?
編輯者 しかしもうあなた位の大家になれば、一作や二作悪いのを出しても、声名《せいめい》の下《くだ》ると云ふ患《うれひ》もないでせう。
作家 それは五円や十円|盗《ぬす》まれても、暮しに困らない人がある場合、盗んでも好《い》いと云ふ論法ですよ。盗まれる方こそ好《い》い面《つら》の皮です。
編輯者 盗まれると思へば不快ですが、義捐《ぎえん》すると思へばかまはんでせう。
作家 冗談《じようだん》を云つては困ります。雑誌社が原稿を買ひに来るのは、商売に違ひないぢやありませんか? それは或主張を立ててゐるとか、或使命を持つてゐるとか、看板《かんばん》はいろいろあるでせう。が、損をしてまでも、その主張なり使命なりに忠ならんとする雑誌は少いでせう。売れる作家ならば原稿を買ふ、売れない作
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