芥川龍之介

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)外套《がいとう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一体|従兄《いとこ》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)冬枯れていた[#「冬枯れていた」に傍点]
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 僕は重い外套《がいとう》にアストラカンの帽をかぶり、市《いち》ヶ谷《や》の刑務所へ歩いて行った。僕の従兄《いとこ》は四五日前にそこの刑務所にはいっていた。僕は従兄を慰める親戚総代にほかならなかった。が、僕の気もちの中には刑務所に対する好奇心もまじっていることは確かだった。
 二月に近い往来は売出しの旗などの残っていたものの、どこの町全体も冬枯れていた[#「冬枯れていた」に傍点]。僕は坂を登りながら、僕自身も肉体的にしみじみ疲れていることを感じた。僕の叔父《おじ》は去年の十一月に喉頭癌《こうとうがん》のために故人になっていた。それから僕の遠縁の少年はこの正月に家出していた。それから――しかし従兄の収監《しゅうかん》は僕には何よりも打撃だった。僕は従兄の弟と一しょに最も僕には縁の遠い交渉を重ねなければならな
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