ょっとこの男に同情した。「こっちは親戚総代になっていれば、向うは刑務所総代になっている、」――そんな可笑《おか》しさも感じないのではなかった。
「もう五時過ぎになっています。面会だけは出来るように取り計《はから》って下さい。」
僕はこう言い捨てたなり、ひとまず控室へ帰ることにした。もう暮れかかった控室の中にはあの丸髷《まるまげ》の女が一人、今度は雑誌を膝の上に伏せ、ちゃんと顔を起していた。まともに見た彼女の顔はどこかゴシックの彫刻らしかった。僕はこの女の前に坐り、未《いま》だに刑務所全体に対する弱者の反感を感じていた。
僕のやっと呼び出されたのはかれこれ六時になりかかっていた。僕は今度は目のくりくりした、機敏らしい看守《かんしゅ》に案内され、やっと面会室の中にはいることになった。面会室は室と云うものの、精々《せいぜい》二三尺四方ぐらいだった。のみならず僕のはいったほかにもペンキ塗りの戸の幾つも並んでいるのは共同便所にそっくりだった。面会室の正面にこれも狭い廊下《ろうか》越しに半月形《はんげつがた》の窓が一つあり、面会人はこの窓の向うに顔を顕《あら》わす仕組みになっていた。
従兄《
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